伯父「わりゃ、こっちさん、家のなおったっちゅね?」
私「じゃっとさな、福岡にな」
先日の連休に帰省したときに、伯父と交わした会話です。
この場合の「なおる」をどう標準語に訳すか、いろいろと思うことがありました。
この会話を訳すと、こんな感じになります。
伯父「お前は、こっちに引っ越したんだってね?」
私「そうなんです、福岡にね」
訳してみる
ここで触れたいのは「なおる」という言葉。
これをどう訳すか、この方言をご存知のない方にどのように説明したらいいか。
冒頭に挙げた会話においての意味としては、
なおる = 元に戻る、引っ越す
でいいと思います。が、使う場面で変わるという要素もあります。
「はよ、こっちゃんなおれ」
だと、
「早く、こっちに座り直しなさい」
という意味にもなります。元に戻る、という意味では同じだけど、座るという動作も表します。
いろいろな場面で使える汎用的な言葉と言えます。共通しているのは、なおる=元に戻る、というイメージでしょうか。
漢字でどう書くか、が微妙
ここでご紹介している言葉「なおる」は漢字にしづらい。
治る、でもないし、直る、とも違う。
居直る、の居を抜いた「直る」、ならまだニュアンスが近いかも。
漢字は難しい
大雑把に言えば、なおる、直る、治る=元に戻る、という共通点があるように思えます。
それでも、漢字で書いてしまうと、特定の意味、標準語に固定されてしまいます。漢字は素晴らしい存在ですが、一方で枠を作ってしまう存在でもありますね。
家に戻るのをなおると表現するということは
私は、10年勤務した広島から、この春に転勤で福岡の自宅に戻りました。
そのことを、伯父はなおった、と表現したわけですが、「福岡に戻ったんだね」と言われるのと「なおったんだね」と言われるのには少なからず差を感じます。
「なおった」は、本来お前は福岡にいるべきところ単身赴任でいなかった、それが、本来いるべき福岡に戻ってきた、という意味合いが含まれます。
さらには、“お前は長男なんだから、親を面倒見るべき家にいなくてはならない。その家に戻ってきた”というニュアンスまで感じるのです。
ここまでのニュアンスを感じるのは私だけかもしれません。もうこれは、言葉というより、私の伯父との関係、親戚との付き合いの歴史から生まれる、私だけの解釈かもしれません。
が、それは置いておいても、なおる=元の家に戻る、には、単に言葉だけでなく、その背景に「長男は家に戻る」「長男が親の面倒をみる」という、九州、いや日本の慣習がバックにあると感じるのです。
そこからして、なおるを家に戻ると訳すのは、言葉としてはわかるけど、そこには文化、慣習が含まれてのこと。
つまりは、言葉はその地域の文化や慣習とともに歴史を刻んでいるものだから、他の地域、他の国の言葉に訳すということに無理があるのではないか、ということを言いたかったんです。
ちょっと大げさな話でしたかね。
そんなつまんないことを考えていた日の朝の新聞に、この本の広告が出てました。
中身はまだ読んでないですが「ほら、やっぱり」と思ったのは言うまでもない。
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